東京地方裁判所 昭和49年(ワ)5810号・昭49年(ワ)2411号・昭49年(ワ)5811号 判決
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【判旨】
2 原告の責に帰すべき事由による増額事由の発生の抗弁について。
原告が公庫から公庫法一七条一項三号に基づく貸付を受けて本件建物を建築したものであること、原告が昭和四八年五月二日本件繰上げ償還をしたことはいずれも当事者間に争いがなく、原告の公庫に対する債務の弁済条件は前記一2で認定したとおりである。
<証拠>によれば、原告は、本件建物の各居室の賃借人を募集するにあたり、本件建物を公庫融資金によつて建設した住宅として掲示し、本件各賃貸借契約においてもその旨明示されていたこと、したがつて、原告が公庫法及びその付属法令(以下、「公庫法・規」という。賃料については三五条二項、同法施行規則一一条)並びに公庫との間の資金交付契約上の規制(原告は、右契約により、家賃を設定し又は変更しようとするときには、公庫の承認を受けるべき義務を負つている。)を受けることを前提として、本件各賃貸借契約が締結されたものであること、しかし、本件各賃貸借契約によると、本件建物の賃料は公庫の定める額による旨約定されているわけでなく、また、賃料額の増減について、「甲(原告)は住宅金融公庫借入金の償還金、住宅の維持管理費、地代又は地代に相当する額、公租公課、火災保険料等家賃の算出基礎に増減があつたときその他住宅に改良を施したとき若しくは関係法令により増減の事由が生じたときは……家賃及び敷金の額を変更することができる。この場合甲から乙(被告ら)に通知することによつて変更の効力を生ずるものとする。」と約定されており、本件各賃貸借契約は、原告と公庫との間の法律関係とは別個独立の契約として締結されたものであることが認められる。右事実によると、原告の本件各居室の賃料の増額請求権は右条項所定の事由変更が生じたときに発生するものであり、その行使が公庫法・規及び原告と公庫との間の前記資金交付規約上の規制を受けるに止まるものと解される。そして、同法二一条の三第二項は、公庫から貸付を受けた者は、借入金の弁済期日が到来する前に借入金の全部又は一部を償還することができる旨規定し、貸付を受けた者が、借入金の繰上げ償還をすることによつて、同法・規及び前記資金交付契約上の規制を免れうることを認めているのであり、このことは、原告が右規制を受けることと同様に、本件各賃貸借契約の前提又は右契約において予定されていたものと認められる。したがつて、原告が本件繰上げ償還をし、公庫法及び公庫との資金交付契約上の規制を免れたことを被告らに対して主張することは、信義則上許されないものとはいえないし、右繰上げ償還の事実は、前示のように本件各居室の賃料の増額請求権発生の事由とはいえない。したがつて、被告らの抗弁2は採用することができない。
(柴田安幸)